不動産売却は、人生の中でも金額が大きい取引の一つです。その分、「契約内容の思い違い」「費用の不透明さ」「物件状態の説明不足」などが原因で、売主・買主・仲介会社の間にトラブルが起こりやすくなります。
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不動産売却でよく起こるトラブルを具体的に知りたい
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トラブルを未然に防ぐための実務的な対策が分からない
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万が一のとき、どこに相談すればよいか知っておきたい
本記事では、不動産売却で頻出するトラブルを「契約」「金銭」「物件」の3領域に整理し、原因と対策をセットで解説します。読み終える頃には、売却を安全に進めるチェックポイントと、困ったときの相談ルートが明確になります。
この記事で分かること
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不動産売却で多いトラブル11パターンと起こる理由
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売主が事前に打てる“現実的な予防策”
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トラブルが起きた際に頼れる相談先(公的窓口・専門家)
1. 契約に関するトラブル例
契約段階のトラブルは、後工程(売却活動・決済・引渡し)すべてに影響します。特に多いのは「情報の偏り(囲い込み)」と「解除条件の認識違い」です。
1-1. 媒介契約を結んだ不動産会社による「囲い込み」
囲い込みとは、仲介会社が物件情報を他社に十分共有せず、自社のみで買主を見つけて両手仲介(売主・買主双方から手数料)を狙う行為を指します。売主側から見ると、買主候補の母数が減りやすく、結果として「売却期間が長引く」「価格交渉で不利になる」といった不利益につながります。
よくある例として、問い合わせはあるのに内見が増えず、他社からの紹介も少ない状態が続くケースがあります。これを防ぐには、媒介契約の種類(一般媒介・専任媒介・専属専任媒介)と、販売状況の報告頻度・広告方針を契約前に確認することが重要です。
さらに、査定は1社に絞らず複数社へ依頼し、販売戦略(掲載媒体、内見導線、価格改定の基準)まで比較してから仲介会社を選ぶと、囲い込みリスクを実務上かなり下げられます。
1-2. 買主からの一方的な契約解除
売買契約後でも、一定の条件を満たすと契約が解除されることがあります。代表例が、手付解除(買主が手付金を放棄して解除)や、住宅ローン特約(ローン否認で解除)です。売主としては「売れたと思っていたのに振り出しに戻る」ため、精神的負担だけでなく、売却スケジュールにも影響が出ます。
よくある原因は、解除条件・期限・必要書類の読み落としです。契約書に解除条項があっても、期限管理が曖昧だと「解除できる/できない」の争いに発展します。
対策として、契約締結前に「解除できる要件」「期限」「手付金の扱い」「違約金」を必ず確認し、分からない文言は宅建士に説明を求めてください。買主側の資金計画(ローン事前審査の状況等)も、可能な範囲で確認しておくと、解除リスクを現実的に下げられます。
2. 金銭に関するトラブル例
金銭トラブルは、感情的な対立に発展しやすい領域です。費用の内訳が不透明なまま進むほど、後から「聞いていない」「そんなはずではない」が起こります。
2-1. 法外な仲介手数料を請求される
仲介手数料には上限(法定上限)があり、これを超える請求は原則として適切ではありません。ところが、契約時に計算方法や税込/税抜の前提を確認しないまま進めると、想定より高額な請求に驚くケースがあります。
よくあるのは「上限」ではなく「任意の成功報酬」のように説明され、結果として納得感がないまま支払うパターンです。
対策はシンプルで、媒介契約の時点で「仲介手数料の金額(または計算式)」「支払時期」「追加費用の有無」を書面で明記することです。請求書が出てから慌てるのではなく、契約前に“数字”で合意しておくのが最も確実です。
2-2. 仲介業者から広告費を別途請求される
「広告費無料」と聞いていたのに、成約後にポータルサイト掲載費や撮影費等を別途請求され、トラブルになることがあります。これは、媒介契約書や費用明細に「どこまでが手数料に含まれるか」が整理されていないと起こりやすいです。
対策として、媒介契約の締結前に「広告費・販売活動費の負担者」「発生しうる費用項目」「発生条件」を一覧で提示してもらいましょう。口頭説明だけで進めず、必ず書面(メールでも可)に残すことが重要です。
費用の発生条件が曖昧な場合は、その時点で契約を急がず、他社の提案と比較するのが安全です。
2-3. 売却後に買主から代金が支払われない(決済遅延・不履行)
決済日になっても入金が確認できない、融資実行の段取りが崩れて決済が延期になる――こうした決済遅延は、売主にとって大きなストレスになります。特に、引渡しと入金の順序・同時性が整理されていないと、深刻な不利益につながりかねません。
対策として、決済は原則「入金確認と同時に引渡し(鍵・書類の交付)」の手順を徹底します。また、買主がローン利用の場合は、金融機関・司法書士・仲介会社を含めた当日の段取り(場所・時間・必要書類)を事前にすり合わせておくことが重要です。
契約書上も、遅延時の取り扱い(違約金、解除、遅延損害金など)を確認し、リスクが顕在化した際に“次に何をするか”を決めておくと、混乱を抑えられます。
2-4. 提示された買取価格が相場より極端に安い
「すぐに現金化できます」「内見不要です」など、買取のメリットは分かりやすい一方で、買取価格は仲介による市場売却より低くなりやすいのが一般的です。問題は、相場を確認しないまま急いで契約してしまい、後から大きな機会損失に気づくケースです。
対策は、買取を検討する場合でも“比較対象”を持つことです。具体的には、仲介で売った場合の想定価格(査定)と、買取価格の差を数字で把握し、差額が「スピード・手間削減・瑕疵リスク移転」などのメリットに見合うかを判断します。
最低でも複数社の査定・買取提示を取り、価格だけでなく条件(契約不適合責任の扱い、引渡し時期、残置物対応)まで比較すると、極端に不利な契約を避けやすくなります。
3. 物件に関するトラブル例
物件トラブルは、売却後に発覚すると「契約不適合責任」や損害賠償に発展し得ます。売主にとって最もダメージが大きい領域なので、事前準備が重要です。
3-1. 瑕疵の申告漏れ(物理的・環境的・心理的・法的)
雨漏り、シロアリ、給排水不具合などの物理的瑕疵だけでなく、近隣騒音・悪臭、周辺環境、過去のトラブル履歴などが原因で紛争化することがあります。ポイントは「買主の判断に影響する事実が、事前に共有されていたか」です。
よくあるのは、売主側では“軽微”と思っていた内容が、買主にとっては重要事項で、引渡し後に「聞いていない」となるケースです。
対策として、告知書(物件状況報告)を丁寧に作り、曖昧な記憶でも「いつ頃・どんな事象・どう対応したか」を可能な範囲で記載します。必要に応じてインスペクション(建物状況調査)を行い、客観資料として添付すると、後からの争いを抑制しやすくなります。
3-2. 土地の境界線をめぐるトラブル
境界が不明確な土地は、買主が融資を受けにくい、引渡し後に隣地所有者との争いが起きる、といった問題につながります。登記図面と現況が一致していない場合や、境界標が欠損している場合に起こりやすいです。
対策は、売却前に境界の状況を整理し、「境界標の有無」「確定測量の有無」「隣地立会いの可否」を確認することです。境界確定が必要な場合は、測量士等の専門家に依頼し、売却スケジュールに織り込んでおくとトラブルを回避しやすくなります。
契約上も、境界明示の範囲や費用負担を明確にしておくことが実務上重要です。
3-3. 地中埋設物の発見による責任問題
解体後や造成時に、地中からコンクリートガラ・古い基礎・廃材などが見つかり、撤去費用をめぐって紛争になることがあります。事前に把握しづらい一方で、発見されると金額が大きくなりがちです。
対策として、過去の利用履歴(建物の増改築、井戸、浄化槽、擁壁等)を思い出せる範囲で整理し、告知書に反映します。売却形態や土地条件によっては、事前の地中調査を検討する余地もあります。
また、契約書で「埋設物が発見された場合の扱い(解除・費用負担・協議方法)」を定めておくと、発生時の混乱を抑えられます。
3-4. 引き渡し後の残置物トラブル
引渡し後に家具・家電・ゴミなどが残っていると、撤去費用や手間をめぐってトラブルになります。売主は「置いていっても問題ないと思った」、買主は「約束と違う」となりやすい典型例です。
対策は、残置物の範囲を明確にし、撤去するもの・引き継ぐものをリスト化して契約書に添付することです。引渡し前には現地で最終確認を行い、写真で状態を残しておくと、後日の争いを避けやすくなります。
処分が難しい大型物や特殊廃棄物がある場合は、売却活動の早い段階で処分計画を立てるのが安全です。
3-5. 管理規約や重要事項説明の不備(マンション等)
マンションでは、管理規約・使用細則(ペット、楽器、民泊、駐車場等)や、修繕積立金・管理費の状況、長期修繕計画などの情報が取引判断に直結します。ここに誤記や説明不足があると、買主の不信感につながり、契約解除や賠償の火種になり得ます。
対策として、最新の管理規約・総会議事録・重要事項調査報告書など、必要書類を早めに揃え、重要事項説明の前に内容を点検します。仲介任せにせず、売主側も「買主が気にするポイント」を把握しておくと、説明の抜け漏れを減らせます。
特に規約改定や大規模修繕の予定がある場合は、買主への説明が不足しないよう注意が必要です。
4. 不動産売却トラブルを最小限に抑えるには
トラブルの多くは「事前の説明」「記録」「相手選び」で大きく減らせます。ここでは、売主が実務として取りやすい対策を3つに整理します。
4-1. 物件の不具合・心理的要因があれば正直に伝える
不具合を隠して売るほど、引渡し後のコストとストレスが増えやすくなります。買主が納得して購入する構造を作る方が、結果的に取引は安定します。
具体的には、告知書の充実、修繕履歴の提示、必要に応じたインスペクション実施が有効です。軽微な不具合でも「発生時期・対応・現状」を説明し、買主が判断できる材料を揃えましょう。
誠実な情報開示は、価格交渉を不利にするどころか、契約後の揉め事を防ぎ、取引の成立確度を高める方向に働くことが多いです。
4-2. 重要なやりとりは必ず書面やメールで残す
不動産取引は関係者が多く、口頭のみだと認識違いが起こりやすいのが実情です。費用、スケジュール、合意事項、例外対応は、必ずメールや書面で残してください。
特に、追加費用の発生条件、引渡し条件、残置物、修補の約束は“言った言わない”になりやすいポイントです。打合せ後に要点をメールで送り、相手の返信で合意を取っておくだけでも、トラブル抑止力は大きく上がります。
契約書・重要事項説明書・添付資料は、データと紙の両方で保管しておくと安心です。
4-3. 悪質な不動産会社を見抜くポイント
業者起因のトラブルは、最初の見極めで回避できる余地があります。注意すべきサインは、説明が曖昧、費用の内訳を出さない、契約を急かす、質問に正面から答えない、といった行動です。
見抜くコツは、査定価格の高さだけで選ばず、「販売戦略」「報告頻度」「費用明細」「リスク説明の丁寧さ」を比較することです。売主に不利な点(瑕疵、境界、相場下落など)も含めて説明できる担当者は、信頼性が高い傾向があります。
不安がある場合は、宅建協会の相談窓口等で一般的な見解を確認し、第三者の視点を入れると判断を誤りにくくなります。
5. トラブルが起きた時の相談先
どれだけ対策しても、相手都合でトラブルが起きることはあります。重要なのは、感情で押し切られず、適切な窓口に早めに相談することです。
5-1. 宅建業者の相談窓口(都道府県の宅建協会など)
宅建協会等には、不動産取引に関する相談・苦情の窓口があります。相手が宅建業者の場合、業界団体としての助言・案内を受けられるため、初動の相談先として有効です。
相談時は、媒介契約書、重要事項説明書、メール履歴、請求書など、事実関係が分かる資料を揃えると話が早く進みます。
「違法かどうか」だけでなく、「実務上どう整理すべきか」を確認する意味でも、早めの利用が有益です。
5-2. 消費生活センターや国民生活センター
不動産取引も消費者トラブルとして相談でき、助言やあっせん等の案内を受けられます。費用請求や説明不足など、生活者側の立場で整理したい場合に相性が良い窓口です。
まずは時系列で事実を整理し、相手の説明と食い違うポイントを明確にして相談すると、適切な対応方針を得やすくなります。
事業者との交渉が難航する前に、早期に相談するのが効果的です。
5-3. 弁護士・司法書士・ADR(裁判外紛争解決手続)
損害賠償、契約解除、支払い遅延など、法的判断が必要な局面では専門家対応が現実的です。弁護士は交渉・訴訟対応まで一貫して依頼でき、司法書士は登記や書類面の実務に強みがあります。
また、ADRは裁判よりも柔軟・迅速に解決できる場合があり、事案によって有効な選択肢になります。
「相手が応じない」「金額が大きい」「期限が迫っている」などの状況では、早めに法律相談へ切り替える方が結果的にコストを抑えられることがあります。
6. まとめ
不動産売却のトラブルは、主に「契約」「金銭」「物件」の3領域で発生します。囲い込みや契約解除、費用の不透明さ、瑕疵・境界・残置物などは特に頻出で、放置すると大きな損失につながりかねません。
一方で、トラブルの多くは、事前の情報開示、書面での記録、仲介会社の比較・見極めによって予防可能です。売却を急ぐほど判断が荒くなりやすいため、契約前に“数字と条件”を固める姿勢が重要です。
万が一トラブルが起きた場合は、宅建協会、消費生活センター、弁護士・司法書士・ADRなど、状況に応じた相談先を使い分けることで、解決までの道筋が見えやすくなります。
不動産売却は準備で安全性が大きく変わります。焦らず、根拠と記録を積み上げながら進めていきましょう。